シンポジウム『腐女子文化のセクシュアリティ』参加レポート その2
発表タイトルを見れば分かるかと思いますが、今回はかなり表現がきわどいです(苦笑) 苦手な方は心のご準備を。
また、これは前回の記事についても言えることですが、ほぼ自分のメモと記憶を頼りに書き起こしており、間違いや私見が混じっている可能性がとても高いです(苦笑)
女性のマスターベーションとBL 関西大学社会学部講師 守如子
「女性の性的欲望」のおかれた位置
- ポルノ=女性差別、なのか?
- 「青少年の性行動全国調査」によるとかつてあった性向経験率の男女格差は近年消えつつある。実際に性向経験率が大きく変わったというよりは、正直に答えることができるようになった面がある
- 対して、マスターベーション経験率については明らかな男女格差が見られる
- 多くの女性が「したことがない」「知らない」と答える
- 例えしていても「したこどがある」と答えられない女性もいる(一般に<マスターベーション>と言った場合の主体は主に「男性」と位置づけられいるため)
- 実際にしたことのない女性もいる*1
- → 性のダブルスタンダードの存在
- 男性には性の主体性を認めるが女性には認めない
- 女性が性的欲望を持つことによって蔑視される空気がある*2
- また、性が強調された表現に嫌悪感を持つ女性もいる
- → そのような視線を恐れ、なにも知らない「無垢な私」をよそおうことで自分を守る女性 *3
BLは純愛かポルノか
- 「BLはポルノの方法論を用いてはいるが純愛である」(小谷真理?)
- しかし、「コミックJune」*4(2004年6月)の読者投稿を見ると、実際にマスターベーションをしていることを告白している女性は確かにいる
- 「コミックJuneが無いと溜まって溜まって……」
- 「読者プレゼントのバイブ片手にコミックJuneを読むのが夢です(だからバイブ下さい!)」
- BLをポルノグラフィ*5として読んでいる女性の存在
2008年8月に発売されたBLコミック誌全てにおいて、セックスシーンのある作品数をカウントしてみた*6
- 最も少なかったのは「Chare」で15作品中1作品
- 最も多かったのは、コミックJune、BOY'Sピアス、麗人で100%(ノルマがある?)*7
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セックスシーンの多い「ハードなBL」について、ページ数の割合も数えてみた(2004年9月)
誌名 | 割合 |
---|---|
コミックJune | 52.10% |
BOY'Sピアス | 39.29% |
麗人 | 14.66% |
<参考>
エロ劇画 | 51.22% |
美少女コミック | 54.38% |
レディコミ | 57.49% |
- 最もハードなもので、男性向けエロと同程度
コミックJuneの読者層は?
- 2004年6月の投稿ハガキを統計的に処理するという条件で調査させてもらった
- ハガキを投稿した読者:175人
- 性別内訳:男性17人、女性157人、不明1人
- 年齢内訳:10代〜30代
- 在住地、職業などは本当に様々
- 「地方在住で、気軽に入手できるゲイ雑誌がないので助かっています」というゲイの男性も
- ハガキの内容も様々。同じ作品を読んでも反応も様々
BLにおけるセックスシーンの位置づけ
- 「至高の純愛」の表現手段
- 読者のマスターベーションファンタジー
- 純愛を求めてコミックJuneを読む人もいれば、マスターベーションアイテムとして読む人もいる
- セックスシーンの比重も位置も雑誌によって全く違う
- 受け取り方も読者によって全く違う
男性向けポルノとは異なるBLマンガの性表現の特徴について、見てみたい
1:内面のモノローグ
- 少女漫画から受け継いだ技法
- 多用される登場人物の心情描写により、行為に意味づけを持たせる
- → どんなに乱暴であっても、登場人物の受け取り方(実は素直になれなくて、気持ちよかった、etc)を示すことにより、暴力ではないことを示す
- → 読者が作品を安心して読むことができる
2:攻めの顔の描写
- 男性向け:セックスシーンにおいては女性(受け)の身体と顔をメインに描く。男性(攻め)の顔は描かない。
- BL:受け・攻め両方の身体、顔を描く
- レディコミ:女性(受け)、男性(攻め)両方の身体、顔を描く
- 「攻め」の顔とは?
- 「攻め」が一方的に行為に及んでいるのではなk、攻めが受けに「イかされている」ことを提示する
- 受けの攻め性、対等性
- 両方が描写されることで、読者は両方に欲望を向けられる
BL読者の視点の多様性
- ある読者投稿企画:「好きな有名人、芸能人、キャラ(男)で○○な妄想をしてください!」*9
- 送られてきた妄想の内容を分けてみると…
- 芸能人受け・自分攻め
- 芸能人攻め・自分受け
- 芸能人攻め・芸能人受け(自分は傍観者、もしくは受け、攻めをけしかける) ← これがかなり多い
「攻め」の顔を描くことによって可能になること
- 1,攻めへのアイデンティファイ → 攻め視点で受けの快楽を見て欲望する(男性向けポルノと同じ)
- 2,受けへのアイデンティファイ → 受け視点で攻めの快楽を見て欲望する*10
- 3,両方の快楽を見渡す視点 → 第三者視点に立ち、表現から身を引き離した位置で両者に欲望する
- 特にBLにおいては三番目を強化するための仕掛けが何重にも凝らされている
- そのことによって読者は安全なポジションから楽しむことができる。そのような仕掛けにBLは満ちている。*11
- 多様なBLのありかたは、女性の性の難しさに対応していると言えるのではないか
質疑:セックスではなく純愛を、というような読者投稿があったが、若い読者は純愛・セックスの対立を意識しているのか?
- 人によると思う。読者投稿も、セックスが駄目、というのではなく、自分の苦手なセックスが駄目!と言っているのではないか。セックスに拒否反応を示す理由も人によって違い、若いかどうかというような理由では語れない
所感
数字が面白かった(笑)
分析については、腐女子ならば殆どは同意できるのではないかなぁ。BLが安心して読める、というのもとても同意。
しかし、男性には理解しがたいのか、直後の休憩時間には「あんなの(純愛とか)嘘だよねー」と言っているような若い男性の声も聞かれた。(それ、理解を放棄してるだけじゃね?とも思ったが、さすがに問い詰めるには至らず)
腐女子、ひいては女性の難しさというのは、社会の規範を内面化して、性的なことを語るのを腐女子であるところの女性自身が「恥」と感じたり嫌悪してしまったりするところにあるのかもしれない。
これは、「腐女子ですけど何か?」とか「ほっといてください」だったり、同じ腐に対してもつい内部規範をしいてしまう部分(腐は隠れろ!というような圧力)にも通じるような。
この腐女子的態度については、次に行われた石田氏の発表が痛いところを突いていたように思うのでそちらで。
*1:筆者注:殆ど全ての男性はするのに、ということ?
*2:ふしだらな女性、はしたない女性
*3:筆者注:何から?男性社会の視線から?女性社会の視線から?自分自身の抑圧から?
*4:BL初期の雑誌「JUNE」とは別物。「JUNE」は実質廃刊になっている
*5:この発表では、ポルノグラフィ=マスターベーションのために消費される性表現、と位置づけている
*6:胸など身体に直接に触れたシーンがあるものをセックスシーンとしてカウントした。キスはカウントしない
*7:筆者注:事実ノルマはあると思われる。また、作品中のページ数にもノルマがあるらしい。3分の1以上はセックスシーンにする、など。
*8:エロ自体が嫌いなのではなく、作品の表現の何か(3Pなど?)が気に障った模様。純愛の果てのエロなら大歓迎?
*9:○○には毎回様々なBL的シチュエーションが入る
*10:筆者注:受身の自分、ではなく攻めの快楽に欲望する?行為の主体は「快楽を与えている自分」にある?
*11:逆を言えば、そこまでの仕掛けを作らなければ安心して楽しめないとも言える