相変わらず頭の痛い図書館BL問題と報道メディア。
また再燃しているようです。何故か今更共同通信が報道したのが元凶?
とはいえ、これのタイトルはとてもいいですね。「市民の不信感募る」これです。つまりは対応が二転三転する図書館に、市民が不信感を募らせている、って記事なわけです。経緯を端折っているので誤解が生じる余地はありますが、大筋はそういうことです。
ところがこれが「痛いニュース」に引用されて変な方向へ。
非常に短慮なコメントが付いてるだけなので、見なくていいですけどね。ありがちな「腐女子自重」とか「エロ本置くな」とかその類です。このBL=ポルノ=オカズ、という思考回路には多分に言いたいことがあるわけですが、ここでは置いておきます。
で、これを見つけて(?)尻馬に乗ったと思われるのが、この記事。
タイトルからして釣りです。何が言いたいか見え見えです。
なんというか、前にも叫びましたが、自分はこういった偏見と誤解に満ちた記事が嫌いです。本当に。
ちょうどこの記事には、今回の問題における問題点がいっぱい詰まってるのでいちいち突っ込んでみようと思います。自分のまとめと、初めての方へのガイドを兼ねて。。。
BL小説「18禁」のはずが・・・
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
BL小説は、法的に18禁じゃありません。というか、どんな小説も、現時点の条例・法律では18禁になりません。*1
なお、18禁基準(有害図書基準)については、とてもタイムリーなこのエントリ参照。
大阪・堺市の図書館に約5500冊所蔵される、男性同士の恋愛を題材にした「ボーイズラブ(BL)」と呼ばれる小説について、図書館側が18歳未満への貸し出しを認めていることが明らかになった。
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
「明らかになった」ってか11月14日の時点でちゃんと発表してます。記事にもなってます。
http://www.asahi.com/kansai/entertainment/news/OSK200811140107.html
館長会議では、正当な理由がない限り、特定の資料の特別扱いや撤去をしない、とする日本図書館協会が79年に決議した「図書館の自由に関する宣言」を確認。そのうえで、書棚での管理は教育的配慮に欠けていた▽府条例の有害図書にはあたらない▽未成年の利用実態はほとんどない▽年齢制限に法的根拠はない――などを踏まえ判断した。
で、この記事にもあるとおり、「BLを18禁とする」法的根拠はありません。
問題の発端は、BL小説が堺市立の4図書館で書棚に置かれていたことに対して、市民から「セクハラではないか」「子ども悪影響を与える」などといった廃棄を望む声が相次いだことだ。
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
ここは、微妙なところです。市民から要求があったのは事実ですが、廃棄の差し止め要求を出した市民団体の方が図書館にあたったところ、この要求は「少数の匿名市民」による「執拗な要求」だったことが分かっています。
「匿名市民ひとり(同一人物)から」が、しつような電話やメールがあった、と図書館側にもきちんと確認しています。
廃棄を求める「『保護者』がたくさんいる」ような書き方はミスリードです。
もちろん、この記事だけを信用するわけにはいきませんが、その後教育委員会とのやりとりもあって、そこでも同様の事が言われているのでまったくの嘘というわけではないでしょう。
で、経緯を追うと、どうやらその「匿名市民」は「フェミナチを監視する掲示板」というところで意見交換をしており、ここでアドバイスされて(?)初期から市議会議員へ働きかけるなどしていた模様。(朝日の記事の引用してない部分に出てくる「政治的圧力」ってやつですね)
最近になってこんな記事も出てきましたが
ここに登場する市民が「匿名市民」なのかは不明です。そもそも2回目以降が読めない……。
堺市によれば、BL小説は、利用者からのリクエストが多く、これまでに約5500冊を購入。購入金額は約370万円に上る。
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
冊数と価格。これはそもそもミスリードです。
ご質問の「市民の声」の回答にあげておりました、平成20年8月21日時点での冊数5,499冊については、平成20年9月末の蔵書冊数 1,817,989冊の0.3%に当たりますが、この冊数は調査・検討のために、該当するものと思われるものを抜き出したものであり、すべてが過激な性的描写があるものではありません。
http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/_shimin/data/5812.html
まあ、図書館の言い訳じみた態度は見え隠れしますが、それはさておいて。5500冊=BLじゃないわけです。内訳については、この辺でも言及してます。
また、教育委員会もこう言っています。
・5499冊は「有害図書」ではない(一部書庫対応のものはある)。
・図書館は収集基準にかなった本を入れており、過激なものは、もともと購入しないという方針。
・ひどいものばかりのように書かれているが、問題ないものも多い(見本を持参)。
・開架のBL本はまとめて目に付くところに置いてあったわけではなく、一般の本にまぎれて、背表紙が見える状態だった。
・現時点で除籍基準に該当するものはない。
「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ書」(41名2団体)提出しました。 - みどりの一期一会
にも関わらず、排除を要求している人達は、「破廉恥な表紙が並んでいた」だの「表紙にセックスシーンが」だの言った挙げ句、
過激なBLだけで5500冊だったということか バーク - 2008/11/15(Sat) 21:07:36 No.59981
結局、堺市が書庫入れしたBLは男性同士の過激なセックスシーンが描かれたBLだけのようです。
たとえば下記の堺市立図書館の検索ページにて「書名(タイトル)のところに「コバルト文庫」と入れてみてください。これだけでも、なんと2214冊がヒットします。BLの書庫入れが決定された後でも、たとえば「少年舞妓」シリーズのような多数の冊数の図書が購入されています。
azaq-net.com - このウェブサイトは販売用です! - azaq-net リソースおよび情報
などと言い続けているわけです。
コバルト文庫=BL、じゃないのは当然として、上の検索方法じゃそもそも書庫入りの本もヒットしますからね……。あたまわ(ry
ちなみに、上記の市民団体の方のサイトに、「5500冊」のリストもあります。興味を持たれた方はどうぞ、それを見て判断して下さい。
で、この後の経緯は、まあ記事の通りです。
こちらの記事の通り、申し立てなどが行われ、その後、18禁待遇は解除されました。
つまりは、
18禁じゃない本を18禁じゃなくしたよ。
という、もうそれだけのことなのです。その理由は「法的根拠が無い」からです。すっごい普通です。
が、記事はさらに続きます。
図書館での扱いをめぐっては、ネット上の掲示板などでは、
「BL好きだけど、あれはどう見ても18禁だと思う」
「男性同士の同性愛をテーマにしてる本と言っても、ただのエロ小説から割りと真面目にブンガクしてるのまでピンキリだし線引きをどうするかだよな」
といった様々な声も上がる。
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
だから18禁じゃないってば(苦笑)
というのはさておき、「BL好きだけど〜」のような声が上がったのは事実です。では、彼女らは何を想定して「18禁」と言っているのか。法的に18禁じゃないですよね?だって書店で買えるし。買おうとすれば小学生だって幼稚園児だって買えます。
じゃあ、何なのか、というと2種類あるんじゃないかと推測します。
1つは、「オトナの楽しみとしてこっそり楽しみたいの!(見られたら恥ずかしいし)」な心情。
1つは、同人誌の自主規制区分などに当てはめている、という状況。
前者だとしたら、言い方は悪いですが、「勝手にやってろ」と言うしかありません。
この記事にもまとめましたが、そんな個人的な感情を図書館に押しつけるのは間違いです。お願いだから気付いてください。
図書館はどんな本も排除しません。ましてや、18禁でも有害指定でもない本を図書館の独断で「18禁扱い」するなあどあってはいけません。堺市の図書館は一時的とはいえそれをやってしまったわけですが。*2
やるなら腐女子コミュニティ内部で自重圧力でもかけてください。腐女子ってかなり個別主義なところがあるので、難しいとは思いますけど。
で、問題は後者の場合。ちょうどタイムリーにやってるコミケですが、コミケでの年齢制限本を開催者側は制限してくれますか?18禁エリアとか20禁エリアとかありますか?大まかには分けてあるかもしてませんが、そこの入り口に年齢確認ゲートがあるとかじゃないですよね?
つまりあれは、自主規制なわけです。書き手(=販売者)による。ということは、BL本を18禁にしてほしければ、どこに言うべきか?それは出版社です。出版社に、自主規制を求めるべきなのです。
図書館でも、読者でも無く。
さて、最後です。ここが一番酷いんですけど……。
堺市の水ノ上成彰市議は、BL小説について、「中身はポルノ小説で、イラストも過激だ」として、図書館での取り扱いについては「公共機関が買って読んでもらうようなものではない」と否定的な見方を示している。水ノ上市議は、市立図書館が18歳未満への貸し出しを認めていることについて、
「条例で法的に制限できないため、致し方ない面もあるが、図書館側も05年以降、BL小説を購入していない上、こういったかたちの男女の恋愛本についても購入していない。図書館側も青少年の教育上『好ましくない』のは分かっているわけで、『有害図書』指定でなくても、BL本は18 歳未満には貸し出さない、という毅然とした態度をとってもいいのではないか」
BL小説「18禁」のはずが・・・ 堺市図書館が一転「貸出解禁」 : J-CASTニュース
いや、図書館は別に「読んでもら」ってるわけじゃないから!!あくまでも「読みたい」人に「提供」してるだけだから!中立なんです。図書館は。
あと、男女のセックスシーンを含む恋愛小説??いっぱいあるでしょ、図書館には。あと、「青少年の教育上〜」って言ったのは「市」です。「図書館」じゃないです。
で、最大の突っ込みどころは最後。立法機関の一員たる議員が、法律無視した対応を推奨してんじゃねーよ。
ちなみにこのひと、「匿名市民」の話に乗って圧力をかけた「議員」さんじゃないかなぁ、などと自分は邪推しているんですけど、ね。
一市民の苦情を図書館に押しつけるとか、冗談じゃ無いですよ。そこは状況を精査して、本当にまずいと思ったら、市に条例でも何でも提出して「有害図書」にする方向に持っていけばいいわけです。明確な基準と共にね。勿論その場合、「過激な性描写」が含まれれば、男女だろうがBLだろうが百合だろうが関係ありませんから、男性諸君もご安心を。
さて、引用ばかりの記事でしたが、ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
ここまでの流れで、いわゆる報道メディアが、どれだけ今回の問題をいいかげんに報道しているかが分かるかと思います。そりゃ、「若い女性がエロ本を!」って騒ぎ立てればセンセーショナルな効果は得られるでしょう。でもそれじゃあ、2chで無責任に騒いでいる人達となんら変わりません。
最後にもう少しだけ引用を。
まず、図書館問題研究会という、まあ図書館屋の団体による要請文。
貴館が所蔵する「BL図書」の利用制限措置(今後は、収集および保存、青少年への提供を行わない)を見直し、原状に復するよう要請します。
(中略)
今回の措置は、一市民の投書に対する過剰反応であり、外部の圧力に屈した結果であると受け取らざるを得ません。貴館は「図書館の自由に関する宣言」に基いて「BL図書の処分」を要求した市民に対し説明を尽くし、理解を求めるべきでした。
利用者の多様なニーズに対応するため、図書館が提供する資料にも多様性が求められます。図書館の特定の資料はある利用者にとっては不快かもしれませんが、そのことを理由にその資料を排除することは許されません。今回の措置は、あらゆる資料要求にこたえ、すべての図書館資料を国民の自由な利用に供することを謳った「図書館の自由に関する宣言」に反するものであり、容認できるものではありません。
「BL図書」の利用制限措置いついて(要請)
そしてTwitterであったひとこと。
図書館が「18歳未満には早い」との判断を自主的に出来る前例が出来てしまえば、自分の嫌いな作家の本を端から眺めてベッドシーンがあったら即18禁、みたいなことを偏った図書館員がはじめた場合の対抗策が取りにくくなる
http://twitter.com/min2fly/status/1082231832
「BLだから」って思考停止してる人は、本当にこんなことが起きてもいいと思ってるんでしょうか?
自分は、嫌です。
そこまで考えてないのかもしれない。単なる個人の不快感でぎゃーぎゃー言ってるのかもしれない。でも、だからって責任は免れないと思います。特にメディアとか議員さんとかはね……。