「虚無への供物」 中井英夫

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)
やっと(苦笑)読みました。やはり読まず嫌いはいかんですね。非常に面白かったです。(嫌い、というわけではないのだけれど、一般的に名作と呼ばれる作品は何故か敬遠しがち…)
と言っても、感じを掴むのには非常に苦労しましたが;探偵(役)が複数出てくるのもあって、話が…というか推理が錯綜しまくりで、途中まで何が何やら。おかげで上巻は読み終わるまでにかなりかかってしまいました;下巻に入ってからは割合一気に読めたのですが。
読み終えての感想は、濃いなぁ、という感じ。事件の謎も背景も、散りばめられた蘊蓄も。例えば蘊蓄で言えば、京極作品や森作品(特に初期)などもかなり濃いのだけれど、あちらはそれなりに腑に落ちてから次の蘊蓄が来るのに対し、こちらは前の蘊蓄が腑に落ちていないうちに次の蘊蓄が流し込まれる感じなので余計。というか登場人物の誰も他人の蘊蓄なんて聞いてやしないので;一応、語り手にあたる人物はいるのだけれど、全然聞き手に回らない…というか自分が率先して事件を引っかき回してみたり(今書きながら思ったのですが、これって関君みたいだな(苦笑)そういえば他の構造も…似ているのか)
まあ、それはさておき、面白い推理小説であることは確かですね。キャラも立ってるし、怪しげな謎の人物はいるし(あれ、推理小説の条件ってこんなんだっけ…?)
加えて、いわくありげな一族に、密室の中の死体、シャンソンに薔薇に五色不動、とミステリ好きなら聞いただけでわくわくしそうな小道具がてんこ盛り。錯綜を重ねる推理(絶対に謎や事件ではない)。随所に登場する「こじつけだろ!」とツッコミを入れずにはいられない、しかし魅力的な数々の符合。そして最後の瞬間に全てが自分に向かってくるかのような不思議な感覚。どこをとっても素晴らしい推理小説であると思います。
真相やなんかに関しては…、簡単には語れない気がするので言及を避けます。少なくともとても素直に受け入れられたことは確かです。まったく古びた感じがないというか。つまりは、未だ呪縛は解けていないということなのでしょうが…。

因みに、上巻と下巻は別買いしたのですが、下巻をネットで買ったら京極さん&綾辻さんのコメント入り帯がついてきて、ちょっと幸せ(笑)