「薬指の標本」 小川洋子

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

人々の思い出の品々を保存する<標本室>を舞台にした恋愛もの一本(薬指の標本)と、不思議な小部屋を持って旅する親子との出会いを描いた一本(六角形の小部屋)を収めた中篇集。本屋で何となく(本当に何となく)タイトルと表紙に惹かれて手に取った一冊です。
舞台となる、人々の思い出を保存する標本室や、人々がやってきて独りで言葉を紡ぐためだけの六角形の小部屋は都市伝説のようにひっそりと存在し、人々を癒していく存在なのですが、癒されると同時にそんなものとそれらを営む人間に囚われていってしまう女性達が主人公。
淡々とした文章で語られる物語は、わりと生々しいにも関わらず現実感があるような無いような、不思議な作品です。何だか…、まるで水の中から外の風景を眺めているような、そんな乖離感と静かさがあります。とても…、不思議な作品でした。
読み終えて、著者紹介のところを見たら、「博士の愛した数式」の作者さんなんですね。何となく納得。