「黒き河を往け」 藤村脩

黒き河を往け (ジグザグノベルズ)

黒き河を往け (ジグザグノベルズ)

19世紀末ロンドンを舞台にした、ファンタジー探偵物語、といったところでしょうか。まあ、ラノベではありがちな、少し不思議な力を持った主人公が事件に立ち向かう、という話です。でもって、その不思議な力である「術式」は一応作品内オリジナルですが錬金術陰陽道といった感じ。
多少説明的な文章が気になるものの(特に1話。もしかすると最初は1話完結だったのかな?)、展開や事件の真相なんかは面白いです。主人公の能力もなるほど、という感じ。ヤードの刑事さんとか、主人公の姪っ子とかのキャラも立ってるし。相対的に主人公のキャラが薄いのは…ちょっと残念かな。一応、過去が設定されているらしく、それを匂わせる文章はところどころにあるものの、出てくるたびに唐突感があります。
この本には3つの事件が収録されているのですが、毎回下町にある主人公の探偵事務所には不似合いな紳士が依頼人、というのにはちょっと違和感。一つくらいは違うパターンがあっても良かったような。あと、タイトルにある「黒き河」はテムズ河らしいのですが、それを示すような文章が1箇所しかないので、いまいち収まりが悪いかも。個人的には、19世紀末が舞台でしかも主人公の職業が探偵だというのに、ホームズさんやレストレイド警部の影の欠片もないのが残念でした(笑)
……で、嫌いな作品でもないのに、何故珍しくもこのような分析的な文章を書いているかというと、作者さんが実は身近な人間だからなのですね。気分的にはサークルの読書会の感想のノリです。
まあ、そんなわけで決まり文句的に、次回作に期待、とか言ってみます。実際、内容の好みもあるでしょうが、1話より2話、2話より3話が面白い気がするので。