「甲子園の空に笑え」 川原泉

甲子園の空に笑え! (白泉社文庫)

甲子園の空に笑え! (白泉社文庫)

基本的にインドア派なせいか(幼少時の経験により、水泳とか登山とかスケートとかは好きですが)、スポーツものは苦手、読めるのは暑苦しく無さそうなフィギュアとか水泳とかだけ(まあ、内情は暑苦しい部分もあるのでしょうが、少なくとも見た目は涼しげ)な自分が、不覚にも野球漫画で泣きそうになってしまいました…。川原泉、おそるべし。
表題作「甲子園〜」は田舎の弱小高校野球部が監督になってしまった(苦笑)女性教師とともに、甲子園に出場してしまい、ある意味前代未聞の記録を打ち立てる、という話。でも全然スポ根じゃないのです。むしろほのぼの。ほのぼので、淡々としていて、ほんとにスポーツもの?!ってくらいに暑苦しく無い。独特の絵とストーリーのおかげで、キャラクターの体温が感じられないのがポイントかな。でもなんか、よいのです。
一緒に収録されている「銀のロマンティック…わはは」(”わはは”までがタイトル…)も同様。まあ、これはフィギュアものですが。それにしてもほのぼの。ペアで(しかも初出は20年前)四回転とかいう無茶なことをやってのけたり、男性スケーターが足に過去の怪我の後遺症を抱えていたりするくせに、ほのぼの。でもって感動もの。しかも、フィギュア界の実情や技の名前なんかがほんっとーにさりげなく、さらりと出てきているあたりがすごい。
ミステリ好きとしては一番注目すべきかもしれない「ゲートボール殺人事件」は素直に面白い。真相はそれはもう間抜けの一言に尽きるのだけれども(金のトンカチって!!)。でもって、やっぱりほのぼの。ヤクザやさんとか、美学を持った殺し屋とか出てきても、ほのぼの。
つか、川原泉は何を書いてもほのぼのなのですね。シリアス書いてもラブコメ書いても、ギャグを書いてもほのぼの。でもそれだけじゃなくて、妙にじーんときたり、泣けたり笑えたり、考えさせられたり。最高です。漫画でしか描けないものって、絶対にある、って思わされます。
因みに、同作者の笑う大天使(ミカエル) (第1巻) (白泉社文庫)が映画化される(された?)らしいですが。どうなのかなぁ?人間が演じてしまうと、どうしても体温が生じてしまうように思うのですが…。