「エンド・クレジットに最適な夏」福田栄一

貧乏学生の晴也のもとに持ち込まれたのは、自分を付け回す不審者を捕まえてほしいという女子大生の頼み。早速彼女の部屋で不審者が現れるのを待っていると、マンションの前の道からこちらを見上げている男の姿が。しかし男は不審者ではなく、隣に住む女性の兄だった。妹と連絡が取れなくて困っている彼の頼みを、晴也は引き受けることになり……。なぜか芋蔓式に増えてゆく厄介な難題に東奔西走気息奄々、にわかトラブルシューターとなった青年の大忙しの日々を描いた巧妙なモザイク青春小説。

人に薦めてもらっておいて何なんですが……、まっっったく好みじゃなかったです。
小説として面白いのは確かだし、構成もしっかりしてるし、最後まで読ませる勢いもあるんですが、それだけ、という感じ。
特に好きになれなかったのが主人公。人柄良し、人望あり、腕っ節が強くて頭の回転もいい。常識人で妹にだけは滅法甘い。しかも多分容姿もそこそこ。どんなに事件に振り回されても勉学は疎かにしない。……ってどこのスーパーヒーローですか!!完璧かつ完璧すぎない?正直、大学生としてはありえないでしょ。
おそらく、作者としては「妹には甘い」の部分で人間味を出したかったのかなぁ、と思うのですが、そもそも主人公の人物造詣が万能人間+お人よしくらいのもので、背景などがほとんど見えない(語られはするけど、いかにも逆算した背景という感じで説得力が薄い)ために、「妹に甘い」属性も、あまりに万能だと可愛げが無いでしょ?という作者の言い訳にしか見えなくて、説得力無し。
結局、主人公としてのキャラがまったくといっていいほど立ってない。
まあ、ありきたりな言葉で言えば、人間が書けてない。……けど、主人公に頼みごとをしてくる人間たちは、結構人間味があるように感じるんですよねぇ。不思議。
そして事件の方も芋蔓式に増えていくのはいいのですが、結局ほとんど各々バラバラに収束してしまい、あれ?という感じ。解決のほうも、もう少し芋蔓式になってたら、美しかったんですけどね。
最後の落ちは正直どうでもいいし。
せめて主人公がハードボイルドもどきな探偵さんだったりしたら、もう少し楽しめたかもしれません。