電子書籍ストアは書店員を雇うべき

電子書籍の話が続いていますがもう一つ。
電子書籍ストアは早急に書店員を雇うべき。


電子書籍ストアを渡り歩いて思う第一は「値段が高い」。
第二は「欲しい本が無い」。
トップページを覗いて、ランキングを覗いて、ジャンルのランキングを覗いて、欲しい本が無い。買いたいな、と思う本が無い。


しばらく考えて、分かりました。
電書ストアの多くはAmazon楽天のようなWeb書店のスタイルを継承していて、これが間違いなんだと。
「欲しい本が無い」のではなく「既にある本を欲しいと思わせる仕掛け」が無いのだと。
確かに、電書ストアのラインナップは充実しているとは言い難いですが、もっと点数が少ない駅ナカの書店でも「欲しいと思わせられる本」があります。
家に本が溢れまくっていてもでも買っちゃう、力があります。
電書ストアには、それが無い。
その差は何かといえば、売るための棚作り、でしょう。


つまり、今流行(?)のキュレーションの問題。
今やWeb書店でほぼどんな本でも買えるこの時代に書店に行くのをやめない理由が棚や売り場の空気、という人は多いんじゃないでしょうか。
少なくとも自分はそうです。
新刊、今流行の本、書店員のオススメ、出版社のキャンペーン。そんな色々なもので構成された「棚」があるから、わざわざ限られた点数しか並ばない書店に行くわけです。


どんなに言い訳をしようと電子書籍そのものの点数が足りていない以上、その中のどれかを「欲しい!」と思わせる仕組みが必要。
どこを見ても代わり映えのしないランキングなんかではなく、「売りたい本」を並べた「棚」という仕組みが。
点数の少ない電書ストアが真似すべきは点数が無数にあるWeb書店より小型書店。
しかも、ブックフェアで見かけた情報によると、電書ストアの1ページに表示できる書籍は多くて20冊前後。ユーザの平均ページビューは3程度だそうです。
これはストアの扱い点数が上がっても多分変わりません。
おそらくスマフォならもっと少ないでしょう。
つまり、書店で言えば平台2つか3つ。それで欲しい本が無ければページを閉じて、お終い。
それなのにその貴重な平台に、ジャンル分けもせずだらだらと入荷順に並べていくだけ?
あり得ません。


というわけで、電書ストアは早急に書店員を、より正確には「棚作りのできる書店員」を雇うべき。
別にそれは正規の書店員である必要は無くて、ユーザでもいいわけですが。
というか、コンテンツのキュレーション、いわゆるまとめだのブクログの本棚だのが大流行のこの世の中で、そういう仕組みを取り入れたストアが(少なくとも自分が眺めた範囲では)が全く無いことがよく考えてみたら驚きだよ。

27ページ210円の電子書籍から適正価格を考える

先日iPadを購入し、電子書籍ストアを彷徨ってはお高い値段になかなか購入までは踏み切れない今日この頃。
先日ブックフェアで京極夏彦先生の電子書籍談義を聞く機会などもありまして
京極夏彦氏ら、電子書籍ビジネスを斬る - Togetter
ぐるぐる電子書籍とか電書ストアとかのあるべき姿について考えていたわけですが、さすがにこれはないんじゃないの? という物件に行き当たってしまったのでそろそろ語ってみようと思います。

27ページ210円の電子書籍

その物件、27ページ210円のコミックです。*1
コミックの電子書籍価格は、一般的に1冊500円前後ですから、これはとても安いです。
……が、よくよく目を凝らすと、「前編」「後編」。
説明書きを読むと、雑誌掲載の読み切り作品1本を切り出して配信している形式だということが判明。
高いよ! 売る気あんのか?!

とはいえ、買わずに文句を付けるのもなー、ということで、試しに購入。
結果は、27ページ読み切り。iPadでちょっと拡大すると粗が見える程度の解像度。
しかも単行本で既読だった!!!
……非常に、虚しい気分になりました。

価格比較してみる

とりあえず他の販売形態と比較。
一応、基準は電子書籍を出していた会社のものです。*2

販売形態 販売価格 ページ単価 1話単価
1話売り電子書籍 210円 7円 210円
雑誌 790円 2円 39円
コミック単行本(書籍、電子書籍とも) 630円 3円 79円

※雑誌:目次には20ほどのタイトルあり。350ページ前後と見積り。
※単行本:約200ページ。短編8本収録

やっぱり、27ページ210円は、高いんじゃないでしょうか?

電子書籍の値付け

さて、一般論。
電子書籍の値付けには、(紙の)本と(ほぼ)同じ値付けのものと、電子書籍独自の価格体系のものがあります。
後者には本より高い系と本より安い系がありますが、現在の傾向としては、本の価格より電書価格の方が高めの設定が多いようです。
紙の本と同時に出すと仮定すれば、本の価格=電子書籍価格、という設定にも一理あるように思えます。
曰く、電子書籍を安くすると本が売れない。
曰く、同じ物を別の価格で売るのは(本のユーザーに)悪い。
曰く、安くしても市場が狭いから売れない。
曰く、電子書籍を作るにも特有のコストが。
しかし、その先に罠があります。
紙の本は、出てからしばらくすると、価格が変わるのです。
中古とかではなく、新品が。いわゆる文庫落ちです。
ハードカバーが1200円としたら、文庫は700円前後? もっと安いかも。
まあ、ハードカバーは紙の質もよく、立派な装丁で長持ちしますし棚に並べてもカッコいいですから、それもいいでしょう。*3
が、ここに本の価格=電子書籍価格という式を持ち込むと、話が変わります。
既に文庫落ちした作品は700円で、ハードカバーの新作は1200円で電子書籍ストアに並ぶのです。

例えば、大手の電子書籍サイトで有川浩*4の作品を探してみた結果がこれです。
http://booklive.jp/search/keyword/a_id/5956
阪急電車』        269ページ 525円
『ヒア・カムズ・ザ・サン』 198ページ 1,092円
そもそもこの「ページ数」が何を指すのかさえ、電子書籍においては曖昧ですが*5、ここまで来ると、ものの価格として成り立っていないということは、誰しもが感じるのではないでしょうか。
単行本価格で売られているコンテンツは、数年後にどうなるのでしょう?
文庫化に合わせて値下げするのでしょうか?
まったく同じフォーマットなのに?
その値付けは、何に対するものなのでしょうか?
何故あちらの本は1,092円でこちらの本は525円なのですか?と読者に聞かれた時、出版社はその答えを持っているのでしょうか。


我々は「何」を買っているのか、出版社は「何」を売っているのか

我々は、「本」を買います。主目的はそこに収録されたコンテンツです*6が、紙でできた、出版流通に乗る「本」には様々なものがついて回ります。
紙、インク、それらで構成される「印刷物」、造本、、装丁、組版、目に麗しいカバー、購買意欲を煽る帯、おまけペーパー、輸送、取次マージン、書店マージン、編集者の血と汗と睡眠時間、営業の靴底、書店員のバイト代 etc,etc
挙げていったらキリがない程の製造コスト、人件費、返本・廃棄されるリスクコスト、膨大なコストが乗ります。
これらは雑誌等でも言える事ですが、更に一人の著者が一冊を書き上げ、編集者によってまとめられ、その作品専用のデザインが為された「単行本」ともなれば、雑誌連載や読み切りとはまた違った味があり、世界があり、価値がある、というのは共通認識といっていいでしょう。
その上で出来上がった「本」という「モノ」が売られています。
その「モノ」は大事に扱えば数十年読めます。
インテリアにもなります。枕にもできます。
必要や愛着が薄れたら古書店に売って次の本を買えます。
自炊することもできます。
そういう「モノ」です。
コンテンツに加えて、そういった「モノ」の所有権を我々は買っているのではないでしょうか。


一方、電子書籍で我々が買うものは、「コンテンツそのもの」にかなり近いものです。
当然、編集者の苦労、電子書籍化のコスト*7、販路の管理コスト、電書ストアへのマージン、などなどのコストは無くなりはしません。
一旦電子出版してからも、後から後から出てくる端末に対応する手間もあります。*8
でも、それは「本」に比べたら全体コストとしては少ない、と思います。
しかも現在販売されている電書はおそらく、本よりずっと早く、読めなくなります。
端末がサポート対象外になったら、フォーマットが古くなったら、電書ストアのサービスが終了したら。所有者がどんなに努力しようと、現実問題として読めなくなります。
十数年前に買って、今では本棚の肥やしとなっているCD-ROM版エキスパンドブック『シャーロック・ホームズ全集』が全てを物語っています。*9
端末があれば何百冊でも持ち歩けますが、端末が無ければただの暗号です。
電子書籍で「PCでもiPhoneでもiPadでもAndroidでも!」というような煽りがありますが、あれは逆だと思います。
真相は「PC、iPhoneiPadAndroidでだけ!」
端末*10が無ければ、読めない。
そういう特定条件下でしか使えない限定的な加工済み「データ」の状態で販売されていています。*11


そんな中で出版社の方々におかれましては、「編集者の血と汗が…」「違法コピーリスクが…」「規模の経済が働かないし…」「書店との付き合いもあるし…」「文化を守るために…」などと言って、読者に不自由を強いるその場しのぎの電子書籍を売るわけです。
27ページ210円で。
モノ売るってレベルじゃねーぞ


売る側の事情でしか無いリスクやコストを、これほどまでに買う側に責任転嫁する市場があるでしょうか。
夜間は万引き率が高いからといって値上げをするコンビニがありますか?
新規参入の出版社だからと言って、起業コストを上乗せして単価を引き上げますか?
市場が成熟しないとか言うけどもう10年以上売ってますよね?
携帯コミックとか売ってましたよね?*12
ニーズは既に明らかですよね?

電子書籍の適正価格は?

今のところ分かりません。
誰にも分かってないんじゃないでしょうか。作家にも、編集にも、電書ストアにも。

でも少なくとも、本を限定的にシュミレーションするだけの電子書籍*13であれば、もっと安くていいはずだ、と思います。
現在の電子書籍ePubなどで文字が画面サイズに合わせて流し込まれるタイプが一般的ですが、写真の多い雑誌の版面をそのまま取り込んだものなどは、端末ごとに最適化もされないのですから、もっともっと安くていい気がします。ましてやそのiPhone版などと言ったら…。*14
iPad最適化組版されたものがあれば、その最適化分の価値が上がるかもしれません。
iPadでしか読めない不自由さで価値が下がるかもしれません。
短編1本での配信は短編集より価値が高いのでしょうか? 低いのでしょうか?*15
そういったことをいちいち考えて、値付けがされるべきだと思います。


高い高いと文句ばかり言っているようですが、コンテンツを買い叩くつもりは毛頭ありません。
もしかしたら、既存の「本」がその内在的価値に比べて不当に安いのかもしれません。*16
もしかしたら、本より高値な電子書籍は実はハイパースーパー便利で自分がそれに気付かないだけなのかもしれません。*17

いずれにしろ、それを売って、商売をして、利益を上げて継続的に、ということを考えていったら、もっとマシな価格の出し方が、売り方が、電子書籍のあり方が、あるように思うのです。
それは多分、コンテンツそのものの価値を計る、ということと不可分でしょう。一読者でしか無い自分には「これが正解」などとは口が裂けても言えません。
でも作家は、そしてコンテンツバイヤーである出版社には、それをしなければならない責任がある、と自分は思います。


読者の皆さんは、電子書籍、いくらなら買いますか?

*1:ちなみにBLでした

*2:マーケティングしてやるようで悔しいので固有名詞は出しませんが、中堅どころの出版社です。

*3:場所を取るから厄介、という話もありますが。

*4:ちょうど読んでたので。

*5:原稿用紙? 文庫組版? ハードカバー組版

*6:コンテンツの価値論とか語りだすと長いので割愛

*7:たとえデジタルデータで完全入稿しても、組み直しやフォーマット作成のコストはかかります

*8:特にコミック系

*9:先日インストールを試みましたが、Windows2000にインストールするのがやっとで、Macに至ってはOS9環境が無ければ駄目でした。

*10:とそれを動かす電気とネットワークとついでに電書ストアのアプリ

*11:データだからこそ、多様な展開の可能性が、いや逆に違法コピーが、とかは今回は割愛

*12:携帯コミックも端末が変われば読めなくなることを考えると割高だと思ってましたが。

*13:つまり現在販売されている多くの電子書籍

*14:紙の版面を取り込んだだけで600円もする週刊誌とか、ありますよね。

*15:まとめ買いが安いのは「モノ」の基準であって、コンテンツに適用するとどうなるか分かりません。

*16:その可能性は大いにある。

*17:だったらちゃんと分かるように売って欲しい。

電子書籍Storeの配信点数比較

iPadを手に入れて電子書籍に俄然首を突っ込みたくなったナツさんです!
さて、電子書籍ストアに行って思うこと。探しにくい! 頑張って探しても読みたいのが無い! そして高い!!!
ただでさえ電子書籍ストア乱立であちこち探さなければならないのに、あちこちで検索しても見つからなかった時の脱力感ときたら。
そもそもどこで探すのが効率がよいのだ?


というわけで、ちょうど電子出版EXPO開催中でしたので、各種電子書籍ストアの配信点数をざっくり調べてみました。
っていうか配信点数くらいストアで公開しろよ! と思うのだけど多分あんまりにもショボくて出せないのでしょう多分。。
調査日時は2012年7月6日現在、曖昧な数字しか出してないところも多いので、あくまで目安です。
対象は和書のみとしました。

取次系電子書籍ストア

さて、電子書籍ストアと言っても2種類あります。
出版社直営ストアと取次系(つまり間に業者が入っている)ストアです。
出版社直営は基本的に運営会社のものしか配信しませんから*1取次系の方が当然点数が多いです。
電子書籍端末を作っている会社がストアを運営していることもあり、これも取次系にカウントしました。

BookLive *2 86,000
honto *3 ????
eBookJapan 60,000
パブリ 22,000
パピレス 50,000
Renta*4 30,000
ソク読み 28,000
紀伊国屋BookWebPlus ????
Yahoo! ブックストア 49,000
Koboブックストア *5 30,000
BookPlace *6 85,000
BooksV *7 50,000〜60,000
Reader *8 60,000
ガラパゴスストア*9 ?????
地球書店 3,000
BookGate 1,600

最大手で8万5千前後、というところでしょうか。
hontoは調べたのですが、ネット書店と併設で電子書籍の点数が見つかりませんでした。誰か知ってたら教えて下さい。
Koboは洋書が200万冊以上あるのですが、和書は3万に留まっているようです。またBooksVは何故だか雑誌記事点数まで入れてやがったので、ジャンル別の冊数を目視で合計しました。
地球書店とBookGateの一万冊以下ってのは冗談みたいだけど本当です。んでまた微妙な本しか無いんだこれが……。

直営系ストア

書店直営系。まあつまり囲い込み用。大手だけ。

角川BookWalker 6,000
BookVillage ????
小学館eBooks ????

公開してるところがほとんど無いorz
角川も通りかかったタイミングで流れたスライドの数字をメモっただけなので、直営系はあんまり表に出さない方針なのかも。。

まとめ

直営系が外に出してないコンテンツがある程度ある、取次系の配信コンテンツはだいたい同じ(出版社が同じ物を色々なところに出している)という前提でカウントすると、国内で手に入る電子書籍は、延べ約10万から多く見積もっても15万というところでしょうか。
Koboが洋書なら200万点以上をうたってることと比較すると。。。
日本の年間出版点数が大体7〜8万なので、電子書籍ストアには約2年分の書籍しか無いことになります。*10
東京の区立図書館だと、所蔵点数30万点超えもザラですからそれと比べても見劣りしますなぁ。


しかし何よりうんざりするのは、電子書籍ストアの乱立っぷり。ここに上げてないストアもまだまだあって、更に電子出版EXPOでは「電子書店ソリューション」なるものが堂々と出てたりして、小型電子書店はまだまだ乱立の余地があるようです。
せめて…せめて横断検索を!


結論:どうせ手に入らない本は手に入らないので、取次系を1つか2つ、あとはその出版社の直営をチェックしたら諦めるべし


っていうか普通本を買うのに「あの本はあの出版社だからあそこの本屋で〜」とかやる?!やらないよね?!

*1:提携扱いで他社のものを配信している場合もありますが

*2:凸版印刷三省堂

*3:DNP丸善、NTT系

*4:パピレス系列の電子書籍レンタルストア

*5:楽天

*6:東芝

*7:富士通

*8:Sony

*9:Sharp

*10:もちろん実際には電子書籍オンリーの微妙なコミックとかすごく古いコミックとかもあって、書店に並ぶ新刊と比べると酷く見劣りする